遠交近攻

井沢実(1897−1976)の『大航海時代夜話』(岩波書店、1977年)です。
著者は外交官で、長くスペイン語ポルトガル語圏に勤務し、東西交渉の歴史を研究しました。1970年代に岩波書店が〈大航海時代叢書〉という、当時の史料の翻訳集成を企画したときの中心人物のひとりで、この本は、その叢書の解説や月報に執筆した文章を中心にして編まれています。
当時のキリスト教社会は、イスラム勢力によってヨーロッパの端っこのほうにつめられていたので、イスラム圏のむこうにあるキリスト教の国、〈プレスター・ジャン〉の国を捜し求めていたとのことです。エチオピアと連絡がついたのも、そこと関係があったようです。
今の知識ならば、ネストリウス派が〈景教〉と呼ばれていたとか、宋の開封にはユダヤ人街があったとか、そういうレベルのことはあったのでしょうが、当時としては茫漠としていたにちがいありません。そうした〈仲間〉を求める気持ちも、東への途上にはあったのでしょう。もちろん、それがどう変容していったかについては、よくよく考えなければならないのです。ある意味、今でも未解決なことですから。