双方向

有島武郎小さき者へ・星座』(角川文庫、1969年)です。
ここに収められた「星座」は、1900年ごろの札幌農学校を舞台に、そこに通う学生たちの群像を描いた作品です。
その中で、彼らの中の一人、北海道千歳出身の星野青年が英語を教えているおぬいさんと呼ばれる少女がいます。ところが、星野は帰省することとなり、おぬいさんの英語指導に、同学の渡瀬という男が、指導に入ります。ところがある日、渡瀬とおぬいさんとが、感情の行き違いから、微妙な衝突を起こすのですが、作者はそこを、双方の視点から描くという手法をとるのです。
もちろん、ページを上下2段にわけて、それぞれの心理を描くとまではやりませんが、まずはおぬいさんの視点から、次いで渡瀬の視点からと、重層的に描くことで、二人のあいだの懸隔をきわだたせます。
そうした試みが、あったのですね。