温存

『コレクション戦争と文学』(集英社)の第14巻、「女性たちの戦争」です。女性に限らず、子どもの目からみた戦争の話も出ています。
その中から、中本たか子「帰った人」を。
戦時中の作品です。素子という主人公の女性は、女学校を出て、仲のよかった弘信という慶応出の男性と知り合います。素子は彼の妻になりたいと願うのですが、かれは出征してノモンハンの戦いに参加します。しかし、無事に生還することができたのでした。二人は、亀戸あたりに住む、同じように生還をはたした戦友の家を訪れます。そこは、「九尺二間」(六畳間)に、「父母と妻と二人の子供」で暮らしているのです。訪れた素子には、その家は「破れ、荒れ果てた家」と映るのですが、「お国のためにはいのちを的にして戦い、友とつきあえば真心をこめてつくしてくる、立派な人間らしさ」を感じ、自分も弘信と結婚したら、彼を支えていこうと決意するのです。
戦意高揚というのは簡単ですが、ここで、戦場では戦友であり、心の通い合いがあっても、生活のレベルに関しては、その人と素子や弘信とは、やはり格差があるのだということなのです。戦争は、決して格差社会を解消しません。格差があっても、国を思う気持ちは一つだということで、格差について語ることができなくなってしまうのです。何年か前に、赤木さんという方が、戦争がおきれば格差社会が変わるのではないかという議論をしましたが、少なくとも過去の日本はそうではなかったのです。