心の闇

尾西康充さんの『『或る女』とアメリカ体験』(岩波書店)です。
有島のアメリカでの経験を、現地におもむいて調査し、当時の生活と作品に与えた影響をさぐっています。
当時のアメリカ(有島の渡米は日露戦争のころです)の、移民の多いすがたや、一般の人びとの中にある人種差別の意識など、なかなか表にはでにくいものをよく調べています。
それと、『或る女』などの作品に、かれの当時の心の病というか、ゆれが反映していて、それを有島は、作品を書くことで突破していったというところは、現在の若者たちにも心の闇が広がっている中での、文学のありようを考えるときにも参考になるように思えます。
そういえば、むかし共通一次だかセンター試験だかに、有島の「星座」が出題されたことがあったのですが、そこで採られた部分は、何か病的ともいえそうな、心の中の欲求をえぐり出していて、つらかった記憶があります。妻にも先立たれたかれが、最後に奇妙な死に方を選んだのも、そういうところが関係したのかもしれません。