災害

小田実『「アボジ」を踏む』(講談社文芸文庫、2008年、親本は1998年)です。
1950年代の作品から、1990年代までの短編をあつめたもので、その点では、初期の作品と、最近の作品との差もみえてきます。
小田さんの妻のご両親は済州島の出身で、日本で知り合って結婚しました。けれども、1995年の大地震で生活が崩壊し、「アボジ」さんは済州島に帰り、まもなく亡くなられたとのことです。そのいきさつを書いたのが表題作で、韓国の風習で土葬にする「アボジ」を埋葬した後、しっかりとみんなで地面をふむのだそうです。
小田さん自身の作品も、地震のあとで変わってきたようにもみえますし、ご両親の生活も、地震で決定的な変化を受けたわけです。17年たちましたが、あの地震と、そのあとの生活の変貌は、もっと作品としてあらわれてもいいでしょう。17年も経ったことで、今なら見えることもあると思います。