いまさら気がついた

徳永直に「他人の中」という、作者の米屋での丁稚奉公時代の経験に基づいた作品があります。奉公する少年の現実を描き、1930年代後半の、戦争へと傾斜する時代のなかでの徳永のすぐれた作品として評価されています。
最初に読んだのは、新潮社の〈昭和名作選集〉シリーズの『八年制』(1939年)に収録された版でした。次に読んだのが、新日本出版社の〈日本プロレタリア文学集〉の『徳永直集2』(1987年)でした。あとは、新潮文庫の『はたらく一家』(1948年)にもはいっています。
ところが、今回『結婚記』(河出書房、1940年)という徳永の短編集を手に入れました。そこに「他人の中」が収録されているのですが、まえがきに、「こんどこの短篇集をつくるために、後半を書きあげて結末をつけた」とあるのです。実際、エピソードも追加されています。で、熊本で出された『徳永直文学選集』(2008年)をみると、この追加のある版が収められているのです。底本は『他人の中』(新興出版社、1946年)だというのです。
一度書き足したものを、また戻したということでしょうか。これから、どこかで追求していきたいとおもいます。