きめつけ

瀬戸内寂聴『花芯』(2005年の講談社文庫版、解説は川上弘美)です。
平野謙が時評で〈子宮〉がどうのこうのといったので、作者はしばらく文芸誌に書けなかったとかいう因縁の作品ですが、読んでみると、そんな感じはありません。平野という批評家は、戦時中のみずからの経歴を隠しながら戦争責任をうんぬんしたことで批評界に重きをなした人ですから、きっと、この瀬戸内さんの作品で、主人公と関係する男性が結局はだれでも同じ顔をしてしまうというところに、カチンときたのではないでしょうか。
女性を、性的な側面に注目して描くのも、女性と社会とのかかわりがそこにしか窓をあけられなかった時代の反映とみることはできるのだと思います。現に、この文庫本に収録されている「女子大生・曲愛玲」という作品では、性的に放縦な女子学生が、男と一緒に延安に向かうという形で、社会的に〈開かれた〉一面が淪陥期の北京にあったことをあらわしているのですから。

ところで、この文庫、収録作品の初出をあきらかにしていません。最近は文庫ではじめて作品に触れる場合も多いのですから、そのくらいの手間を惜しんではいけないと思うのですが。講談社文芸文庫の沖縄作品集をこの前取り上げましたが、あれも初出がありません。