読み取り

直木孝次郎さんの『古代史の窓』(学生社、1982年)です。
短い論考を集めたものではありますが、大化の改新否定論への反論や、〈応神・仁徳同一説〉のような、直木さんの主張をうかがわせるものも含まれているので、わかりやすいものになっています。
歴史学は、考古学とちがって、史料の読みにかかっているわけで、そこから社会像をくみたててゆくところに、本領があるのでしょう。『上宮記』にあるという、継体大王の始祖の王が、〈応神〉ではなく、〈垂仁〉の子どもで、長ずるまでことばを発しなかったという伝承のあるホムツワケではないかと考え、始祖をだれに持ってくるかが、由緒を飾るときの重要なポイントになるというところは、推論の手続きとしておもしろいものでしょう。
史料をきちんと読むのは、けっこう大変なことです。そこをゆるがせにしないところが、教科書問題などでの直木さんの姿勢にもつながっているのでしょう。