世界を広げる

柴垣文子さんの『星につなぐ道』(新日本出版社)です。
1966年から67年にかけての時期を作品の中に流れる時間として、京都の大学で学生生活を送った主人公が、府下の山間部(木津川流域の京都府南部の地域です)にある小学校に教師として赴任して、新しい世界を広げていく話です。教師をめざす主人公の成長とともに、彼が大学で知り合った1学年年下の女性との恋愛を成就してゆく過程が描かれます。
その中には、古いものとのたたかいもあります。寮の自治の活動をした主人公は、大学当局からデモに参加したところを隠し撮りされますし、郷里の県の採用試験を受けると、『君が代』に対しての態度を面接で問われ、その答えが理由なのかどうか、不採用となり、京都府下の小学校にようやく職を得るのです。地域のひとびとも、学校に物申すのは組合的だからよろしくないという保護者もいますし、組合そのものも、職場の要求をくみあげているとはあまりみえません。
そのような、1960年代後半の時代を、感じさせるところに、この作品の読みどころもあるのでしょう。