地ならし

木下英夫『松川事件広津和郎』(同時代社、2003年)です。
著者(1942−2002)は長く松川事件の研究にたずさわり、その中で、広津和郎がどうして裁判の支援に全力を傾けたのかを、作品を通して研究しようとしていました。その試みは、広津の作品を年代順に検討するところで、著者の死によって中断してしまいました。その論考をまとめたものです。
裁判員裁判が導入されるとき、松川の経験から慎重な意見があったように、この事件と、その決着がつくまでの道のりは、いろいろなことを考えさせます。広津だけでなく、多くの作家たちが、被告の救援のために力を注ぎました。著者は、広津の研究がひと段落したら、ほかの人々の動向も探りたいと考えていたようです。それは次の時代に引き継がれていくものになるでしょう。そのための材料ともなるものだと思います。