スタンス

中沢けいさんの『書評 時評 本の話』(河出書房新社)です。
2段組720ページの分厚いものですが、この30年ばかりの中沢さんの、いろいろな媒体に発表したものをかき集めています。
中沢さんは一つ年上なので、視点はちがっても、似たようなものを取り上げたり、なるほどと思うような文章もあり、その点での近さも感じてきました。この本の中の、佐多稲子について触れた文章にもありますが、「海を感じる時」で『群像』の新人賞を受賞したとき、選考委員だった佐多稲子が、中条百合子を引き合いに出して選評を書いたのです。たしかに初期の中沢さんの文章には、湯浅芳子と暮らす以前の時代の百合子の文章と似た感覚も感じ取れました。

それにしても書評とはやはり大変なもので、以前(もう20年近くなりますか)『赤旗』に吉本ばななの『アムリタ』の書評を書いたとき、どうしても評価できる作品ではないと感じて、担当の方に思わず「ほめなければいけませんか」と尋ねて、「そんなことはないですよ」と言われて安心したことがありました。同じころ、吉目木晴彦の『寂寥郊野』について『民主文学』に書いたときには、編集から書き直しを命ぜられ、それでも結果的には、1ページの書評が載った後、次の号に別の批評家の方の論考が掲載されたこともありました。批評である以上、ほめるにせよ、批判的に扱うにせよ、そこは評者がきちんとしなければならないのでしょう。

たしか、『すばる』に連載した中沢さんの長編で(タイトルは失念しましたが)、単行本になっていないものがあったはずです。それも本にならないのなら、出版の世界も大変だということでしょうか。