折々だから

茂木文子さんの『マンゴスチンの実は赤く』(民主文学館)です。
作者のこの20年くらいの作品を集めた短編集ですので、統一したテーマがあるというわけではないのですが、作者をおもわせる主人公の、そのときどきの生活と、人生への思いが詰まっています。
一番古い作品は、1969年のものなのですが、小学校の創立記念式典に旧教職員ということで招待された主人公が、国民学校の訓導として教壇にたっていた戦時中の自分をふりかえるところから、当時の「学校」のありようが照射されます。北関東のその町にも、空爆がされるようになり、艦載機による機銃掃射で児童1人が落命します。奉安殿のある正門から登校しようと遠回りのみちを通っていて、逃げ遅れたようなのです。主人公は、そこに不合理性をみます。
そのように、戦後から現代への日々を、主人公は作者とともに生きています。一つ一つは別の作品世界なのですが、世の中の真実をもとめ、よりよい社会のありかたを考える主人公の姿が一貫しているところに、読みどころもあるのでしょう。