実地

金達寿小説全集』から「太白山脈」(第7巻、1980年)です。
1960年代後半に『文化評論』誌に掲載されていた長編で、『玄海灘』の続編にあたります。1945年の8月から約1年あまりの南部朝鮮を舞台にした作品です。
日本にかわってアメリカ軍が支配し、アメリカの息のかかった支配層に対する人びとのたたかいや、支配に屈してその一翼を担う人物も登場する重層的な作品です。作者は作品の舞台になった時代は日本にいたのですし、連載期間中も韓国には渡航できない状況だったので、登場人物たちが動く土地を、実際には見聞できません。作者自身も、それが隔靴掻痒のおもいだったようです。

「わたしの名前はキム・サムスン」の中に、主人公たちが長い階段の途中を歩く場面があるのですが、その山の上には、かつて「朝鮮神宮」があったのですね。そういうことも考えながら読んでしまいました。