事象のつみかさね

井上寿一さんの『戦前昭和の社会』(講談社現代新書)です。
新書ですから、いろいろなエピソードを連鎖させて、当時の社会を描き出そうとしています。大衆化社会であり、アメリカ文化の浸透であり、格差社会でもあったと、位置づけています。その意味では、当時を現代との類似点をきっかけに理解してもらおうという著者の意図もあるのでしょう。
ただ、そこにうまく乗ってこないのが、『植民地帝国』としての日本の姿です。労働組合の要求項目に、民族差別なく同一労働同一賃金という項目を発見(p155)するのですが、そのスローガンにこめられた日本人と朝鮮人との間の差別をなくそうという感覚が、単なる「格差是正のための漸進的な改革路線」のようにとらえられているのは、残念です。