選択

金達寿小説全集』全7巻(筑摩書房)を終わりました。
1980年に刊行されたもので、1979年までの作品が収められています。1975年の「対馬まで」という作品では、当時の政権から忌避されて韓国に入国できない主人公たちが、対馬にいって、釜山をはるかに遠望する過程を描いています。
作者は、戦前の日本統治下の朝鮮で一時期新聞記者もつとめていますので、当時の朝鮮の実態もおとなの目でみつめていることが、作品に厚みをもたらしているといえそうです。
1980年以後の作者のあゆみにかんしては、いろいろと毀誉褒貶もあるようですが、在日の日本語文学に道を開いたことはまちがいのないところでしょう。

ただ、月報の執筆者に、作者とリアリズム研究会からの仲間であった、霜多正次や窪田精、佐藤静夫や永井潔の名前がないのは残念です。西野辰吉は書いているのですが。そこに、作者の微妙な位置もあるのでしょうし、出版社の思惑もあったのでしょう。