甘さ辛さ

西田勝さんの『近代日本の戦争と文学』(法政大学出版局、2007年)です。
1980年代からの、著者の戦争や植民地とかかわる文学に関してのさまざまな研究や評論をあつめたものです。
著者は田岡嶺雲の全集の編纂など、手堅い研究をする人でもあるので、ここで発掘されたさまざまな作品や、作者についての論考には参考になるものも多いのです。ダダイストから『戦旗』の編集にたずさわり、その後「満洲」に渡って現地で弾圧を受けて死去した詩人、野川隆の生涯と作品を追ったものは、その中でも、すぐれているものでしょう。
一方、この著者の評価には、すこし厳しすぎるのではないかという疑問も抱くことがあります。1928年3月13日に結成された「左翼文芸家総聯合」のだしたアンソロジー、『戦争に対する戦争』(南宋書院、1928年5月)の復刻版(不二出版、1984年)の解説も、この本のなかに収められているのですが、著者は、この「総聯合」の路線がその後発展しなかったことを残念に思っているようです。けれども、「総聯合」の発会のあつまりに、『文芸戦線』に拠っていた労農芸術家連盟のひとたちが参加しなかったことについての評価は甘く、「総聯合」を提唱した蔵原惟人への評価は少し辛いような気がしなくもありません。(たしか西田さんは、蔵原さんにそのへんのことを直接インタビューしていて、岩波書店の『文学』に載ったことがあったような記憶があるのですが、今確認できません)
小林多喜二の「党生活者」に関しても、私小説という面を強調するような発言もあったり、そういう面では、いろいろと考える必要はあるのでしょう。