手法

安部公房『R62号の発明・鉛の卵』(新潮文庫、2004年改版、文庫旧版初刊は1974年)です。1950年代の著者の短編を集めたものです。
花田清輝の『アヴァンギャルド芸術』とかは、昔けっこうよく読んでいて、花田の全集まで持ってはいるのですが、どうも、評論は実在の芸術作品を対象にするものなのでイメージがつかみやすいのてすが、安部の作品のような、無から作り出すものものは、あまり得手ではないので、身を入れて読んだことはほとんどなかったのです。
この本も、最初のあたりはとっつきにくかったのですが、「死んだ娘が歌った…」(1954年の作品)のような、厳しい現実を、微妙な形で周縁をまわして、社会批判につなげるようなものあたりから、作者の構築する世界観にもなじみがでてきます。その点では、同じ傾向の作品を集めたこういう本は、入門としてはいいのかもしれません。ただ、もし初出を、文芸雑誌のなかで単独で読んだとしたら、作品世界にすんなりはいれるかは、よくわかりません。本にしてまとめることは、大切ですね。