混沌のなかに

加藤周一さんの『幻想薔薇都市』(新潮社、1973年)です。
加藤さんには珍しい〈小説〉で、1960年代後半あたりの、世界のあちこちの都市を舞台にして、そこに繰り広げられる人びとの姿を描いています。議論あり、性愛あり、政治ありと、その点ではのちの『夕陽妄語』のエッセイ風文章につながるものも感じ取れます。
1960年代末の世界的な「激動」に対しての加藤さんのスタンスには、今からみればやっぱりある種の混沌があるようにみえます。それは、いま「九条の会」の呼びかけ人になっている人たちに、ある面では共通する感覚なのかもしれません。そこを通過して現在があるにはちがいないのですが、それが当時の、ジャーナリズムの姿だったのかもしれません。