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寺出道雄さんという方の、『山田盛太郎』(日本経済評論社)です。
ご存知の方も多いでしょうが、山田盛太郎は、戦前『日本資本主義発達史講座』(岩波書店)の編集にかかわり、そこに収録した論文をベースにして、『日本資本主義分析』(初版1934年、文庫版1977年、いずれも岩波)を刊行した、いわゆる「講座派」の経済学者のひとりです。
著者は、この『分析』を主軸にすえて考えることで、1930年代初頭の日本を照らし出そうとしています。そこでは、「モダニズム」から「マルクス主義」を経て「近代主義」にいたる、日本の知識人をとらえた思考をあぶりだすのです。
第一次大戦で勝利し、国際連盟常任理事国になった日本は、とりあえず、欧米と肩を並べる〈一等国〉になったのだと、当時は思われていました。その上にたつのが「モダニズム」だというのです。しかし、その「繁栄」が、絶対主義支配と半封建的土地制度という、収奪の体制の上になりたっているものだと分析したのが、「マルクス主義」だといいます。それによって、日本は決して欧米並みではなく、民主主義革命が必要な国なのだと、〈マルクス主義者)は主張します。その結果、戦争に敗れて、日本の後進性があらわになったとして、それを克服しようと近代個人主義の伸張をめざす「近代主義」が登場するというのです。加藤周一さんの『羊の歌』に描かれた、横光利一を難詰する一高生を著者はとりあげ、そこに『日本資本主義分析』のもった影響力をみているのです。

今の時代、『蟹工船』がとっても売れていることが評判になっていますが、こうした流れの中に位置づけてみると、おもしろいことになりそうです。今の日本は、G8の一員ではありますが、ほんとうに肩を並べているのでしょうか。