土地の重さ

杉本秀太郎さんの『半日半夜』(講談社文芸文庫オリジナル編集、2005年)です。
杉本さんは京都生まれの京都育ち、旧制高校のときに金沢で少し過ごしたものの大学も京都と、京都のまちを体現したような経歴のかたです。このエッセイ集に収められた文章も、京都の街中の変遷をたどって、ヒヨドリが市中を跋扈しているとか、クマゼミがいつの間にか多くなっているとか、そうしたまちの生活に密着した経験を主にしたものがあります。
旅行者としてしか京都を訪れたことはないのですが、そのときに滞在していたあたりの、夜の姿をみていると、観光の場でもありながら、100万都市という生活の重みもあって、そういう点では、不思議なまちだと思っています。
中村真一郎が紹介していた堀辰雄のことばに、たしか「京都には小説の主人公となるような女性がいない、そこが東京とはちがう」という趣旨のものがあったように記憶していますが、そこまで京都の人を観察したこともないのですが、杉本さんの文章を読むと、やはり何かちがうような感覚はあります。それが京都の町に根づいた重さなのかもしれません。