勧善懲悪

中国古典文学大系の『平妖伝』(太田辰夫訳、1967年)です。
この本は、17世紀初頭に、それ以前に流通していた20回本を、馮夢龍が増補して40回の作品に仕立て上げたものです。宋の時代の実在した反乱を題材にして、それが実は妖術使いたちの力によってなしとげられたもので、結局は邪は正に勝たず、反乱は無残に失敗するというのです。
けれども、よくよく見ると、妖術使いたちの中にも、差をつけてあることに気がつきます。狐系統の妖術使いは、基本的にあまり同情を買うような書き方はしていません。権力を握ると贅沢三昧に暮すのも、狐の系統なのです。
それに対して、道士系統のほうは、まだ良識があるように描かれています。術を使うのも、基本的には世の中の矛盾をとりあえず解消してカタルシスを得るようなもので、雨乞いをして民衆を助けたり、無実の罪に陥れられようとするものを救ったり、結婚しようとする宦官をたしなめたりと、少しは民衆の代弁者として行動しようとしています。彼らは、反乱軍が道理からはずれていくと、そのもとを去り、山中に隠遁するのです。
こうした白話小説は、特に明代のものはあまりむずかしく考えるものではないでしょうが、民衆的な人気のありどころがどこなのかということは、見ておく必要があるのでしょう。