啓蒙的ではあっても

霜多正次さんの『沖縄島』です。
霜多さんは、1950年代から70年代にかけて活躍された、沖縄出身の小説家で、この『沖縄島』という作品は、1956年に書かれています。
当時の沖縄は、米軍の支配下にあって、まだ本土復帰のめどもたっていない時代だったのですが、作者は1953年に沖縄に一時帰省して、その現状をつぶさに見てきたのだそうです。
1972年の本土復帰までは、沖縄に行くにはパスポートが必要でした。1950年代はもっと厳しく、霜多さんの沖縄入りには、現地に「身元引受人」が必要で、滞在の費用も全部現地もち(日本円は持ち込み不可)でないと、渡航が許可されなかったというのです。
作者の沖縄体験が、この作品を生み出したのですが、米軍の支配に抵抗する人物や、逆にアメリカがいてくれたほうが自分の商売にとって得になると考える人物、などと、複眼的な視野で当時の沖縄を描いています。
いわゆる「民俗」だの「文化」だのばかりが注目されるのとはちがった沖縄が、そこにあります。
かつては新日本文庫にあったのですが、もういまはないと思っていたら、家の光協会が昔出していた、〈土とふるさとの文学全集)のなかに、収録されているということです。これなら図書館にあるのかもしれません。