韜晦なのかもしれない

尾形仂さんの『鴎外の歴史小説』(岩波現代文庫)です。
親本は1979年に出たのですが、森鴎外歴史小説の参考文献を探究しながら、鴎外の心境を忖度した論文集です。
中でも出色なのは、「大塩平八郎」と「堺事件」との作品に、大逆事件とのかかわりをみる論考でした。
共謀罪のたくらみのなかで、大逆事件は過去の事例として考えられなければならない側面もあると思うし、この事件が文学者に与えた影響についても、啄木や荷風のことなどは語られてきているとは思いますが、鴎外のように、微妙な形で作品に反映させていることも、大切なものだと思います。
鴎外については、まだ評価が定まったとはいえない面もあるので、役人として出世していく中で感じていた屈託の内実もあるのだし、そこも含めて今後読んでいかなくてはいけないのでしょう。
そのとき、尾形さんの分析は、大いに力になるように思います。