残るもの、残らないもの

川本三郎さんの『日本映画を歩く』(中公文庫)です。
もともとは、交通公社の出していた『旅』という雑誌に、1998年あたりに連載されていた、地方の映画のロケの舞台となったところを探訪した紀行です。
親本が出てからも十年弱ということなので、その微妙な違い(たとえば、筆者が乗った夜行列車もずいぶんとなくなっています)もありますが、それぞれの地域にいって、映画の話題をすると、地元の人がロケのときのことを覚えていて、話題にしていたり、当時の写真を大切に保管していたりということが各地であるのです。
そういう形で、人びとの記憶に残るものが、大切なものなのだと思います。
記憶には残っても、形には残らない。映像として残ってはいるけれど、それはあくまでも「映画作品」の中のものであって、生活の実景ではない。
そこに、1950年代以降の日本が、たどってきた〈土建屋国家〉のひとつの姿があらわれているのです。