その後

田島一さんの小説、『時の行路』(新日本出版社)です。
2008年の12月、北関東に大きな工場をもつ自動車会社、「三ツ星」の派遣社員、五味が雇い止めをされるところから約1年間のことを書いた作品です。彼はなかばだまし討ちのような形で、退職届に署名してしまうのですが、それをとりさげ、労働組合に加入してたたかいます。その中で、同じようにたたかう者、そこからはずれてしまう者、いろいろな人びとの選択が描かれます。
非正規雇用の問題は、今も決着はついていません。今の政権になっても、派遣労働の規制に関しては変わってはいません。そうしたことも考えてしまいます。
ところで、この五味という人物、青森県の八戸の出身という設定になっています。同じ「三ツ星」の南関東にある工場で、やはりたたかっている見瀬という青年労働者が登場しますが、彼の出身は宮城県石巻市です。かれらの出身が、今回の震災の被災地であることは、偶然では片づけられないような気がします。地元での雇用がなく、かれらは「三ツ星」での労働をしているのです。そうした、弱い地域を、今回の地震津波は直撃しました。そこを見なければならないように思います。