原作離れ

年末が近づき、ドラマ『坂の上の雲』の宣伝がはじまったようです。
今年の放映は、二百三高地をめぐる攻防戦や、奉天会戦での騎兵の活躍、日本海海戦と、戦場の場面がメインになってしまうでしょう。それだけ、ドラマとしてのおもしろみには欠けることになるのではないかと思います。
ならば、前にも触れたかもしれないのですが、外からの醒めた目として、漱石の存在をクローズアップさせる方法があるのではないかと思うのです。昨年の放映分には漱石は全く登場しなかった(ロンドンで秋山に会わせてもよかったのではないかともその時思いました)のですが、せっかく小沢征悦という、けっこう名の売れた役者さんをキャスティングしているのですから、『吾輩は猫である』のなかで、ネズミをつかまえようとする猫が、おのれを東郷大将にたとえる場面など、やろうと思えばストーリーに組みこめるのではないでしょうか。現実の漱石は、子規あての手紙の中で明成皇后殺害事件にふれるなど、けっこう時事的な問題にも関心を抱いていますし、それぐらいの原作離れをしてもいいのでは。

昨夜の番宣のミニ番組で今の旅順が紹介されていましたが、〈二百三高地〉とプリントしたTシャツとかを売っているのですね。たしかに、日本人以外が観光に訪れるとは思えない町ですから。日露戦争は、中国領内で戦われたということは、きちんと認識しなければいけません。この前、小松左京の「春の軍隊」を、集英社の「コレクション戦争と文学」のシリーズに収録されたもので読みましたが、あの世界が現実に当時の中国で起きていたわけです。