突出

渡辺順三『評伝 石川啄木』(新興出版社、1955年)です。
新書判で、啄木の生涯をコンパクトにまとめています。著者はプロレタリア短歌の運動に携わり、戦後は新日本歌人協会結成の中心にいて、短歌運動を推進したひとですから、社会進歩の思想を抱くにいたった啄木という側面を強く押し出しています。
いわゆる大逆事件に関して、啄木が裁判の記録を読ませてもらって、それがかれの思考を変えていったわけですが、それを実践するには、時間がなかったというところでしょうか。幸徳秋水が処刑された後に売文社を興した堺利彦たちとの接触はないままに、啄木は世を去ったようです。そうした、組織的なつながりが当時あったならば、また文学運動が存在していたならば、啄木の文学ももっと変わっていたのかもしれません。