併走

小林信彦さんの『道化師のためのレッスン』(白夜書房1984年)です。
たまたま、土曜の朝のNHKで、谷啓の映像が流れていた直後だったので、ここでも触れられていて、いろいろと考えてしまいました。『極東セレナーデ』(1986年から87年にかけて朝日新聞に連載)でも、アイドルをつくりあげる業界の話が、いつの間にかチェルノブイリから日本の原発の啓蒙キャンペーンへとストーリーが展開するというみちゆきに、連載当時からびっくりしていたのですが、そうした小林さんの、批評精神あふれる文章をかき集めたという感じもします。
やはり、実際に同時代でいろいろなものを観ている強みはあるので、その厚みは、小林さんの意見に力を与えています。たしか、『イーストサイド・ワルツ』だったかと思いますが、登場人物に、〈文芸批評の世界では、谷崎や川端を基本的な教養として持っていないと成立しないのに、映画批評ではそうした歴史的な積み重ねが軽視されている〉という趣旨の意見を言わせていて、そういう目配りは、この本にもでています。
難しく考えないで読める、というのは、ここではほめ言葉になりますね。