つまみ取り

子安宣邦さんの『江戸思想史講義』(岩波現代文庫、2010年、親本は1998年)です。
江戸時代の思想家の実情を、なるべく先入観抜きで考えようというのが基本姿勢にあります。というのも、ここで紹介されている例として、中江藤樹が「近江聖人」として有名になったきっかけとして、明治時代になってから、〈孝行〉の側面からの紹介がなされたことが大きいということのように、明治時代の理解が、その後の思考のわくぐみをつくっているということなのです。国定教科書にも採られた〈松阪の一夜〉も同様のもので、実際には真淵と宣長のあいだにも、いろいろと確執にちかいものもあったのだとか。
ここで、子安さんが宣長の『鉗狂人』という論争的な文章の中に、朝鮮半島と日本との関係についての高圧的な物言いを発見しているのはやはり気をつけなければならないでしょう。前にも、通信使に関するまなざしのなかに入りこんでいるみずからを優位に見る視点について触れたこともありますが、宣長のように記紀を読めば読むほど、そこにみられる〈小中華帝国〉的な思考の呪縛にからめとられることもあるのかもしれません。