疎開

鏡政子さんの『きつね小路』(民主文学館)です。
作者の経験に取材した作品を集めた、短編集です。作者は戦時中に学童集団疎開を経験し、1945年に女学校に入学してからも、一家で長野県に疎開したという体験があるようです。表題作も、長野に疎開中の話です。
戦時中はともかく、戦後には疎開者は厄介者のように思われていたようで(山田大輔さんが『民主文学』に発表した作品にも、疎開者がどろぼうの疑いをかけられるというのがありました)、この作品でもそうした状況が書かれています。ある作品では、主人公が就職の面接に中部電力に行くと、疎開者は東京に帰るのだろうから採用できないと、面と向かって言われる場面もあります。
学童集団疎開以外は、ある意味〈自己責任〉だったわけですから、この国のありようは、昔も今も変わらないのかもしれません。昨日付けの『朝日新聞』に、高橋源一郎さんが、西に行く新幹線に幼子を連れた母親が多く乗っていたという話を紹介していましたが、それは生活の知恵なんかもしれませんが、やはり〈自己責任〉の動きを強いているようで、釈然としないものがあります。