ちょっと印象批評的

三浦展の「下流社会」が評判です。現在の格差社会を実感している、世の中をまともに見ようとしている人にとっては、興味をそそられるタイトルでしょうから。
けれども、実際にはたいした内容ではないような気がします。「下流」の人はそれに甘んじて、その中で楽しみをみつければいい、というのが筆者のメッセージではないかと思えてしまうのです。そうしたレベルの言説なら、「害」はありません。ベストセラーになっても、ある種のひとは困らないのですから。
そうした、やや能天気ではないかとも思ったのが、竹内洋の教育史の本です。講談社の現代新書の「立志・苦学・出世」でも、楽観的な見通しを持った人だなと感じたのですが、『立身出世主義』(世界思想社)でも、同じようなことを感じました。直線的な学歴エリートを目指す意識から、そうした競争から一歩はなれた思考をする若者が現れているというのが、この本の最後の分析なのです。明治以来の学歴出世を目指す社会の歴史的分析の最後が、その程度なら、少し単純すぎるような気もします。そんな単純なことでいいのなら、本当はよいことなのかもしれませんが。