新学社のこと

新学社という出版社があります。もともと小学校向けのドリルを扱っている会社で、そこそこのシェアをもっているようです。
その出版社が、ドリルでゆとりができたのか、普通の出版事業に乗り出しています。5年ほど前には、保田與重郎の作品を、全部で32冊の文庫本にして出版しました。戦時中に、〈日本浪曼派〉の中心人物として活躍し、戦争の時代に棹さしていたがために、戦後一時期は沈黙を余儀なくされていた彼が、いつの間にか復活していたのです。でも、保田の作品が復古主義的な文壇の一部に支持されたためもあって、けっこうよく売れたようです。
そこで、新学社は第2弾ということで、〈近代浪漫派文庫〉というものを企画し、出版をはじめました。『維新草莽詩文集』からはじまって、『三島由紀夫』まで、全部で42冊の予定だそうです。もちろん、プロレタリア文学はおろか、いわゆる自然主義文学もありません。透谷や藤村はあるのですが、浪漫的な作品だと出版側が判断したものが収められているのです。もちろん、そうしたもので、読みにくかった作品が入手できるならば、それはそれでよいのですが。
今回買ってみたのが、徳富蘇峰黒岩涙香との合本です。涙香の『小野小町論』は、社会思想社の文庫になったのですが、会社が倒産したために入手できなくなっていたので、それはありがたいことでした。でも、涙香のもう一つの名作、「蓄妾の実例」は、収められません。こっちは、社会思想社倒産で陽の目をみなくなりそうです。
出版の世界にも、復古主義がはやっているのは、韓国や中国を敵視する本が増えているので気にはなっているのですが、過去の文学作品にも、その波は及んでいます。