バイリンガル

ナボコフ『ロシアに届かなかった手紙』(加藤光也訳、集英社、1981年、翻訳原本は1976年)です。
もともとは、ベルリン在住時代にロシア語で発表した作品を、作者本人と息子さんとで英語に直したものだそうです。翻訳者は英語版から訳しています。
ナボコフ作品は、むかし『ナボコフの1ダース』(サンリオ文庫)を読んだ時、故国への感情のあらわしかたになじめなかった記憶があって、あまり読もうとも思わなかったのですが、たとえ亡命の動機がなんであったとしても、土地とそこに根ざしたことばから切れてしまう人間の苦しみを、ともかくここに収められた作品は考えようとしているようです。最後には英語で作品を書くようになった著者ですが、もともとのことばの力は大きいようです。自分で表現し直したのも、そこに愛着をもっていたからなのでしょう。