権利と責任

谷崎潤一郎細雪』(新潮文庫全3冊、1968年改版、親本は1946年から48年にかけて刊行)です。
大阪の旧家にうまれた4姉妹の、1930年代後半の時期を描いた作品です。上のふたりはすでに結婚していて、下の二人がどういう縁をむすんでいくのかが、作品の中心にすえられます。特に、1907年のひつじ年うまれと設定された3番目の雪子が、作品世界のおわる1941年にようやく結婚に向かって動いていくというところに、ポイントがおかれます。
当時、女性はほとんど権利もない状態におかれています。逆に、女性を縁づけるのは、あくまでも戸主の責任であるわけです。しかし、この蒔岡の戸主は長女の鶴子の夫だろうと推察されるのですが、かれは雪子の縁談に関して、戸主としての責任をきちんととっているのかどうかは、けっこういい加減にあしらうかのようにみえます。仕事で東京に転任になるのですが、未婚の義妹ふたりを芦屋に住んでいる二番目の妹夫婦におしつける(ふたりが関西の生活になじんでいて、東京暮らしには堪えられないという理由づけはされていますが)ような形になっています。雪子もその状況にのっかって、安楽しているような感じです。ある意味したたかなのかもしれませんし、どうせ権利もないのなら、主体性などないほうがましと思うのかもしれません。
もちろん、それでいいのかは別問題ですが、そうした生き方を選んだひとも、実際にはいたのでしょう。