描写の力

井伏鱒二『珍品堂主人』(中公文庫、1977年、親本は1959年)です。
学校の先生だった男が、骨董にのめりこみ、骨董屋になる。その中で知りあった男の援助で料亭を開業し、そこそこ繁盛するが、奸計にはめられ、経営から追われる、というのが主筋の話ですが、そうしたいわばたわいもない話を、きちんと読ませるのが井伏作品らしいといえばいえるのでしょう。
料亭に使う味噌をさがしに、利根川源流の村を訪れた主人公が、よい味噌をみつけ、紹介してくれた家の主婦に、みそ汁を作ってもらう場面の、みそ汁のつくり方のところなど、さらりと書いているのですが、料亭の料理よりもおいしそうに見えます。小説の描写は、そういうものかもしれません。