残す

田中琢さんの『考古学で現代を見る』(岩波現代文庫、オリジナル編集)です。
短い文章を集成したもので、考古学の専門家が、他分野の紙誌に書いたものという感じです。それだけに、よい意味での啓蒙的になっていて、考古学というものが抱えている問題点も、わかりやすくなっているという印象があります。
遺跡のむずかしいところは、発掘したものはその瞬間に、元の姿ではなくなっていることです。オリジナルなものがあったとしても、そのもとの用途として使われなくなってから、上に人が生活します。それも時代によって変わっていくと、なにが遺跡の本質なのか、わからなくなってくるのではないでしょうか。古墳のうえに中世城郭が営まれた場合、その中世城郭は遺跡ではないとはいえないでしょう。けれども、今城塚古墳は、古墳としての側面で語られます。出雲大社にしても、オリジナル(であろう)高層建築を復元するわけにもいかないでしょう。
そんなことも考えてしまいます。