転換期

松田解子『あすを孕むおんなたち』(新日本出版社、1992年)です。
作者の晩年の作品で、『新婦人しんぶん』に連載されたようです。1945年5月から約一年間の、作者の周囲をモデルにした作品で、敗戦濃厚となった時期から、女性も選挙権がもてるようになった最初の総選挙までの時期の、東京中野区のすがたが描かれます。戦時下には東条英機ばりのひげを生やしていた町会長が、玉音放送を聞くとひげを落とし、進駐軍がやってくると先頭にたって接待にはしり、総選挙では保守系の候補者を推す、というように、うまく立ち回ろうとする姿を描いて、時代を伝えようとしています。
掲載紙が週刊新聞ということもあってか、ストーリーを流れさせることに力が入るのもしかたないとは思いますが、そこに物足りなさを感じる人もいるかもしれません。
それでも、実感にもとづく当時の生活を、この作品を通して知ることができます。