結局は

久生十蘭『内地へよろしく』(河出文庫)です。
1944年に書かれた作品で、単行本にならないまま現在にいたったようです。作品の時代背景は1943年の末から44年の秋にかけてと、ほぼ連載(『週刊毎日』)期間と同じです。
主人公は画家で、戦争画を描くために南方に派遣され、その過程で知りあった人びととの縁をさがして、内地に帰還してからの出会いを描きます。そして、ふたたび南方に向かいます。その島は、米軍の攻撃正面にあるので、どうみても上陸作戦がおこなわれるだろう、その時には、サイパンであったようなことは避けたいと、島の子どもたちは疎開させられ、おとなが残って備えるのです。主人公もその中にいて、玉砕を予想させて作品は終わります。その意味では、やはり戦意高揚をめざした作品であることにはちがいないのですが、ある意味負け戦の流れを、同時代の証言として描きだした、不思議な作品なのかもしれません。