信仰

二葉亭全集から「茶筅髪」です。
没後発見された未完の稿本なのですが、日露戦争で夫を亡くした女性の再生を描こうとしたもののようです。夫を亡くした女性のもとに、学校時代の友人が訪れます。彼女は幼子を育てようとする主人公に共感し、夫にはたらきかけて主人公の援助をします。そして、主人公を教会にさそうというところで中断しているのです。
再婚を考えないで、遺児を育てようとする主人公、そこに迫る、友人の夫、信仰のみちへ進ませようとする友人、という三者のせめぎあいを書こうとしたのでしょう。信仰をもつことで、生活のよりどころとしようとするというのも、20世紀はじめの姿だったのでしょうか。明治の日本におけるキリスト教の受容は、けっこう複雑なものがありそうです。
二葉亭は、構想を新たにして「其面影」を書きます。ここでは信仰をもつのは、小夜子という夫と別れた女性ですが、それが姉の夫の哲也に惹かれてしまう、というところに、転換があります。その違いというのも、重いものがあるようです。