ドラマじゃない

新首相、「奇兵隊」とのたまったとか。
この前、紹介したと思いますが、井上勝生さんの『開国と幕末変革』(講談社学術文庫日本の歴史18、2009年、親本は2002年)から、奇兵隊とは何かをひろってみましょう。
構成員は〈士庶混成〉ではありますが、年中〈隊中〉にいる常備軍で、月俸もあり、〈武器・弾薬・装備とも藩庁からの支給で、すべて藩庁の管理を受け〉ていた組織だということです。軍事訓練には大村益次郎があたり、毎日13時間も教練をしたそうです。装備は当然、最新鋭のライフル銃です(幕府軍は滑腔銃ですから、命中精度がまったくちがいます)。
そんなですから、規律も厳しく、当時の被差別部落民が〈身分を偽って入隊〉していたことがわかり、〈手討ち〉にさせられたこともあったそうです。
さらには、幕府との戦いの直前、脱隊するものが出たのですが、彼らは帰還後、出身地の村で斬殺の刑に処せられ、〈死骸取り捨て〉にさせられたといいます。
もちろん、近代国民国家の形成に、徴兵制の常備軍が必要だという〈常識〉にのっとって考えれば、こうした形態の軍隊をもつことは、幕藩体制を転換するのには必要だったのかもしれません。けれども、2010年の段階で、首相が自らの内閣をこうした組織にたとえるとは、何でしょう。大河ドラマの登場人物のつもりなんでしょうか。