きっかけ

西條八十詩集』(角川文庫、1977年)です。
近所の古本屋でみつけたのですが、最初に奥付をみると、1977年8月初版、1978年11月6版(角川文庫の用語で、ほかの社なら6刷と書くところです)とありました。よく売れてたんだなと思って、表紙裏の側のカバーをみると、映画『野性の証明』と文庫本の広告が載っています(薬師丸ひろ子のデビュー作ですよね)。当時の角川ならやるでしょう。
口絵として、著者の写真、ときて、驚いたのが、口絵が実は4ページあって、あけるとカラー印刷で、「帽子」という詩が載っていたのです。これでわかりました。この詩は、森村誠一さんの「人間の証明」に使われた詩で、当時、映画の宣伝でしょっちゅうテレビでも流されていたものだったのです。
文庫本の解説にも森村さんが登場して、この詩を「記憶していた」いきさつと、「人間の証明」を書いたころの思い出とを書いています。何かがきっかけで、いろいろと本が動くというのは、さいきんでも「1Q84」がらみで、チェーホフの「サハリン島」が売れたりなどしましたから、思えばそんなに不思議ではないのでしょうが、30年以上経って、こうしたなまなましさを感じてしまうのも、不思議なことです。
でも、尼港事件を浪漫的に扱うというのは、どうにもやりきれないように思います、なぜ日本がそこに進出していたのか、西條は考えたのでしょうか。なんだか、のちの「出てくりゃ地獄へ逆落とし」につながるようなものを感じてしまって、少しいただけないような。