生の軌跡

ゆいきみこさんの『咲子の戦争』(民主文学館、光陽出版社発売)です。
作者は、長く大阪に住んでいたのですが、夫が画家をめざしてそれまで勤めていた工場を早期退職してから、長野県に夫とともに移り住んだ方です。本のカバーにも、たぶん夫の方の描かれただろう山の絵が用いられています。作者は保育士もされていたようで、保育園を舞台にして、子どもたちの成長してゆくさまを描いた作品もあり、長野の農村を舞台にした作品もあり、夫が現役労働者だった頃の夫婦の葛藤を描いたものありと、現代の生きる姿を、さまざまな視点から見つめています。ひとびとの生きる姿を、きちんと見つめて描くことは、やはり小説の基本なのだと、それを継続していくことで、作品の深まりがみえてくるのだと、あらためて感じます。
表題作は、1937年うまれの主人公の目から見た戦争の時代と、その直後を描いていて、子どもにとっての戦争とはなんだったのかを考えることで、戦争の時代の恐ろしさを感じさせます。