見巧者ということ

木津川計さんの、『上方芸能と文化』(NHKライブラリー)です。
大阪の芸能を長年みてきた木津川さんならではの、日本の芸能文化の分析だと思います。
そのなかで、〈一輪文化〉と〈草の根文化〉ということばを使って、その両立を説いているところがあります。〈一輪〉とは、トップレベルの芸術家で、〈草の根〉とは、素人のそのジャンルの愛好者で、そのかわりに、見巧者とでもいうべき、鑑賞能力にすぐれた人たちで、その両者がうまくかみあってこそ、その文化は発達するのだというのです。もちろん、〈一輪〉となる人が、どこから生まれてくるのかという問題はあるでしょう。そのためには、若い頃からの専門的な修練が必要なジャンルもあるでしょうし、各地のそれこそ〈草の根〉の中からそうした人が生まれてくる場合もあるでしょう。
文化運動は、そのへんのことをよく考えていかなければならないのだと思います。自分たちは単なる〈草の根〉でしかないと、自己規定しているとしたら、それでは志が低いということになる場合もあるでしょう。とくに、芸能よりも、文学のほうは、〈草の根〉と〈一輪〉との差は、乗り越えられないものではないはずですから。ただ、それは、差がないということではないのです。
そこを見極めることが、見巧者としての〈草の根〉運動家の役目でもあるのでしょう。