殺意

今月の文芸誌は、なかなか焦点を定めにくいのですが、まずは、『新潮』の島本理生の「クロコダイルの午睡」です。
大学生の女性が、仲良くなった彼女もちの男の子(こちらも学生)に対して、殺意を抱いて彼がそばアレルギーだったので、お茶のなかに蕎麦湯をまぜてしまうという、ストーリーだけを骨にすると、なんじゃいなという作品なのですが、彼女もちとわかっていて、そして自分がその代わりになれるわけもないと自覚していて、でもその男と一緒に出かけるときに装ってしまう主人公の心情は、わからなくはありません。
ただ、その殺意のきっかけが、主人公のすんでいるアパートがユニットバスなので、男が、〈ふたりがつきあうわけがない〉理由を、〈そんな使いにくい風呂のへやで××するのはいやだ〉という趣旨のことを口にしたことだというのです。まあ、いまどきの学生さんが、男女の仲をそれこそ〈男女〉の関係になることを必須のものとするということなのでしょうから、それはそれでしょうがないのかもしれませんが、そういうものなのかな、とも思います。それでアレルギーとわかっていて蕎麦湯を飲ませるのですから、そうした残酷さは、作者がねらったところかもしれません。
そういう点では、悪くない作品です。