誰かがやる

島村利正『奈良飛鳥園』(新潮社、1980年)です。
奈良の古仏の写真を撮り、それをひろめた小川晴暘(1894−1960)の生涯を小説化したもので、作者自身も〈杉村〉という名前で登場します。
奈良の文化遺産が国際的に注目されるにいたったのも、彼の写真が力を貸したことは間違いないところで、そうでなければ、奈良の古寺めぐりは単なる好事家のわざとしてあつかわれていたかもしれません。いまでさえ、奈良は宿泊施設の貧弱さがいわれるまちですから、ひとつまちがえれば、文化遺産より開発だということが、近鉄の車庫や24号線のバイパスや、そごう奈良店どころの騒ぎではないでしょう。
今の奈良の姿をみるときに、それを保持するためにさまざまな人がさまざまな立場から動いていたことを忘れてはいけないということなのでしょう。