トリックスター

アウエハント『鯰絵』(小松和彦ほか訳、岩波文庫、2013年、親本は1979年、原著は1964年)です。
安政江戸地震のあとに発行された鯰絵と呼ばれる刷り物を題材にして、鯰の持つ意味を探ったオランダ人研究者の本の翻訳です。
鹿島の要石に抑えつけられている鯰が暴れると地震が起きるというのは、最近でも『鹿男あをによし』の素材にもなっていますし、この前の大地震でも鹿島神宮が被災したこともあって、あらためて注目されているでしょう。この本はその先駆となる研究ということになるのでしょう。
そういう意味では、文化人類学的アプローチですから、当時の社会情勢とのかかわりという面は、やはり著者はわざと見なかったというふうに考えるのが妥当でしょう。そういう分析は、別の機会にするべきでしょう。鯰という存在に反映した、ひとびとの深層意識のあぶりだしを、読むべきだということですね。
文庫版の解説を中沢新一さんが書いているのですが、重要なことを書き落としています。著者がいつ亡くなったのか、まだ存命なのかが、解説を読んだだけではわからないということです。誰でもすぐに人名事典やネットの検索をかけられるわけではないでしょう。著者に関する生没関係の情報は、書きこんでおいてほしかったですね。