王道楽土

佐多稲子『重き流れに』(講談社、1970年)です。
日露戦争直後に満洲に渡り、満鉄社員からはじまってその後満州の産業にかかわった男性の妻を主人公にした長編作品です。約40年間の満州での生活のなかで、主人公は夫の仕事につきながらも、子育てをし、夫の裏切りにあい、それでも生き抜いて、戦争がおわると子どもたちと引揚げてくる。その心のひだを作者はみすえます。
実は、この主人公のモデルは、戦後マンガ家として活躍した上田としこの母親だというのです。としこ自身も、「朋子」という主人公の娘として作品に登場します。
そういうモデルせんさくはともかくとしても、当時の満州に渡った日本人たちが、どんな意識でいたのかということを考えるには、作者がモデルに寄り添っているだけに、よりはっきりみることができるのでしょう。ほとんど書かれていない関東軍の庇護あってのことですし。