格差の承認

宜野座菜央見さんの『モダン・ライフと戦争』(吉川弘文館、2013年)です。
1930年代の日本映画を材料にして、当時の社会が映画にどのように反映しているのかをさぐります。ですから、内容の批評というより、そこにあらわれる当時の格差社会の実像をみているように感ぜられます。
たとえば、トーキー映画が普及しつつある時代にも、機材の交換の都合などで、サイレント映画も決してすぐに廃滅したわけではなく、大都映画は、あえて、そうしたサイレント映画をつくり、下層階級の人たちへの娯楽を提供していたのだというのです。
当時の日本が、大きな格差が存在していて、都会と農村、山の手と下町、というような目に見える差があったことはいうまでもありません。そこをきちんと考えないと、戦前の日本もけっこう豊かだった、自由があった的な言説にからめとられてしまうのだと思います。
たしかこの前、NHKEテレだったかで、20世紀前半の白黒フィルムにデジタル化して着色してみるという試みをやっているという番組がありました。山本晋也さんもゲストに出ていて、1930年代の銀座の映像に着色したものを見て、なつかしがっていましたが、同時代の人たちでも、そこにいられない人は、白黒映像でしか銀座のにぎわいを感じられないわけです。そうした情報格差も、かつては存在したのだということも、知っておかなくてはならないのでしょう。