頭上の蝿

ギュンター・グラスドイツ統一問題について』(高本研一訳、中央公論社、1990年、原本は1990年)です。
ベルリンの壁が〈崩壊〉(人びとの努力でこわしたものを崩壊というのには抵抗がなくはないのですが)したあと、統一が叫ばれた頃の、グラスさんの意見を集めたものです。
ここで、グラスさんは、〈統一〉は、かつての戦前のドイツを復活させるだけだから、性急な統一は避けるべきだと主張しています。西の一部の人たちには、この期に及んでも、グダニスクやブレスラウもドイツに含まれるべきだと主張していたようなのです。

それはそれとして、グラスさんのような、西ドイツのひとにとっては、〈社会主義〉というのは、DDRの体制そのものなのですね。ベルンシュタインを評価するグラスさんにしてみれば、どんなに社会主義共産主義の理想があっても、そんなものは現実のDDRの前には、意味のないことだと考えているようなのです。それだけ、分断の事実は重かったのでしょう。