変化をたどる

小松英雄さんの『いろはうた』(講談社学術文庫、親本は1979年)です。
〈いろは〉や〈あめつち〉、〈たゐに〉のような、かなをならべたものを材料にして、日本語の変化を考えています。〈お〉と〈を〉との関係は、同じ音価でアクセントのちがいだと考えられていたことや、歴史的かなづかいの弱点にもふれています。

よく、歴史的かなづかいを、〈正かな〉と称する人がいます。けれども、それを正しいとしたのは、明治になってからのことで、江戸時代の人は、それに従ってなどいないことは、滑稽本のような物を読めば一目瞭然です。小松さんも例を挙げていますが、古書に用例のない言葉に関しては、歴史的かなづかいは恣意的なものになってしまうのです。両生類の〈imori〉を〈ゐもり〉と書くのは、民間語源説に過ぎないのだというのです。
もちろん、現代かなづかいが、合理的とはいいきれませんが、それはルールなのですから、改善していけばいいのです。そこにこだわるのはいかがかと思うのですね。引用するときも、多喜二や百合子、中野重治の全集は新かなづかいになっているのですから、あまり目くじらたてるのも、どうかとも思うのです。